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2005年8月 1日 (月)

「ただ泳ぐ 日に日を継ぎてとこしへに哀しみのうた満ちくる海を」

                     『なよたけ拾遺』

 前後の歌からすると、「」内はいうれい(幽霊)の言葉ということになる。

その稚きこころさながらみささぎのみづのあかりに咲く黄水仙
ながきながきねむりのはてのゆめにさへわたくしを呼ぶこゑもこころも
丑満つのほしの流れをうつしつつかさねてゐれば稚きてのひら
あさあけのみどりのもやを身にまとひまだ消えのこる麦の中のいうれい
大きな扉背後にあるを意識して旅の歯ブラシ手ばやく洗ふ

 一連の中にみささぎという言葉も見えるから、この幽霊は、かなり昔に若くして亡くなった高貴な人、ということになる。
 川上弘美の短編に、何年も何十年もさまよっている女の幽霊のたましいの話があるが、あれを読んだときにはどうにもやりきれなかった。この歌とはぜんぜん違う感じなのだけど、ただ気が狂うほど長い長い時間をさすらっていく思いという点では似ている。そういう永遠にさすらう思いというものを想像しただけで、どうにも胸が苦しい。
 ただ一人の海。とこしへにひとり。哀しみが満ちる海ではなく。哀しみそのものが形象化した海。
 そういう孤独な哀しみというものと感応してしまうこころというものは、また哀しくとても危険だと思う。

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